Interviews:2G のオープニングを飾る空山基とダニエル・アーシャムが思うアートとファッションの関係性

新生『渋谷PARCO』は、より境界線がなくなっていくであろう今後のカルチャーを先んじて体現したかのような次世代型商業施設である。数あるテナントの中でも、ギャラリー併設型スタジオの『2G(ツージー)』は、その“波”をどこよりも早く汲み取ったスペースであり、我々の読者とも非常に親和性が高い。それもそのはず、ここは小木“Poggy”基史、「MEDICOM TOY(メディコム・トイ)」『NANZUKA(ナンヅカ)』の三者によるコラボレーションにより誕生し、アパレル、トイ、ギャラリーが同居する世界にも類を見ない空間なのだ。

先日、仕掛け人のひとりであるPoggy氏は、インタビューの中でアートの魅力について問われた際に、「ファッションや音楽には制約を感じるが、アートはまだ自由さを保っているということに惹かれる」と答えていた。確かに、トレンドに左右され、ちょっとした過ちがヘイトを生み出し、一見、自由であるように見えて、表現の幅が一部で狭められたファッションの立場から見ると、これは非常に的確な答えのように思える。

『2G』のオープニングを飾る空山基とDaniel Arsham(ダニエル・アーシャム)は、ファッションと密接な関係を構築するアーティストたちだ。その2人は、アートの視点から見て、今の時代の流れをどのように俯瞰しているのだろうか。2人の出会いや『2G』に展示されている作品のコンセプトにも言及しながら、彼らに率直な意見を聞いてみた。

空山先生とDanielの出会いを教えてください。

空山基(以下、空山):最初は何かの個展だったと思うのだけど……。

Daniel Arsham(以下、Daniel):僕が空山さんの作品と初めて出会ったのは、10年以上前にBrian(ブライアン・ドネリー、KAWSの本名)のスタジオを訪れた時のことです。キャビネットを開けると、そこにはたくさんの作品があり、ふと目に止まったものが空山さんの作品でした。

空山:KAWSは私の作品を盗んだんだよ(笑)。というのは冗談で、彼がまだ今ほどの知名度がない時に私のスタジオに訪れて、その時に「欲しい」と言われたから持たせてあげたんだよ。

Daniel:実際に空山さんとお会いしたのは、僕が2014年にNANZUKAで開催した日本での初の個展“My First Show in Japan, Year 2044”の時です。Brianのスタジオで作品を拝見した時からずっとお会いしてみたかったので、とても嬉しかったことを鮮明に覚えています。NANZUKAでは、2018年にも“Architecture Anomalies”を開催しましたが、10年以上前に空山さんの作品に出会った頃は、このようなコラボレーションで2Gのオープニングを飾れるとは思ってもいませんでした。

お互いの第一印象は覚えてますか?

Daniel:僕が初めて空山さんのスタジオにお邪魔した時は何と言うか……。彼の独創的な世界観に圧倒されましたね。スタジオは一切の隙間がないほどに、作品で埋め尽くされていて。第一印象は、ドローイング、ペインティング、その他立体作品を含め、彼が今までどれほどの量の作品を生み出してきたのか、そんな衝撃を覚えました。空山さんのスタジオを見たことがありますか? クリエイティビティに満ち溢れ、どこか秘密基地のようなワクワク感もあり、とにかく膨大な情報量でした。

空山:私は彼の作品を一目見た時に、宇宙考古学のような印象を受けました。月面のクレーターをモチーフにした作品が、一番インパクトがありましたね。

2Gの内装は、DanielとAlex Mustonen(アレックス・マストネン)によるデザインファームであるSnarkitectureが担当していますね。

Daniel:(南塚)真史とPOGGY(小木基史)によるプロジェクトだったから、とても大きなやり甲斐を感じました。2人は、彼らの興味・関心をひとつの場所に集約しようと考えてました。ファッション、アート、MEDICOM TOYとの関係性……僕はとても理にかなっていると思います。Snarkitectureは、KITHのストアをはじめ、多くのリテールスペースを手がけてきたけど、ギャラリータイプの空間をデザインするのは、今回が初めてでした。でも、Snarkitectureのチームは、様々な要素が混在する場所をデザインしたのに最適な集団であると思っています。

ギャラリーだけではなく、セレクトショップが併設する2Gの新しい業態をどう感じましたか?

Daniel:アーティストの一部には、商業的なものに近いこの構想が問題になる可能性があるでしょう。でも、僕は常にファッションとアートの間でクリエイションを続けてきました。だから、キャリアの早い段階から、DIORやadidasのようなブランドとのコラボレーションをしています。なぜなら、日常生活の中で人がギャラリーに行く必要性はありませんからね。でも、ここに来る人たちだけが経験や体感できる世界があるんです。ギャラリーに行かない人たちでは、絶対にこのような場所を見つけることはできないのではないでしょうか。

空山:Danielの意見を否定するわけではないけど、私の感覚では日常生活に非常に近いコラボレーションのカタチと捉えることもできると思っています。わざわざこのような場所に来なくても、人は洋服を着て、靴を履き、日々アートが存在し、デザインされた空間を生きているわけだから。そもそも、ジャンル分けなんて最初から誰もしていなくて、現存するジャンルはマネタイズの観点からそう仕分けされているだけなのではないでしょうか。偶然にも、『2G』には本展を象徴する手を繋いだ作品に近いインスピレーションを感じます。石膏とステンレスがくっつくことは、現実世界では絶対にありえないですからね。これに気付ける人は作品を見てビックリするのではないでしょうか。

空山さんが言及した手を繋いでる作品は、どのように生まれたのでしょうか?

Daniel:確か……描き始めたのは、6〜7年前のことだったはずです。これは、僕と僕の妻の手がモチーフになっています。最初はドローイングでしたが、2本の手が絡み合うこの作品のスカルプチャーも制作し、2015年には香港の『Perrotin』で展示しています。僕のオリジナルは、どちらの腕も石膏だったんです。それからまもなく、僕が日本に訪れた際に、空山さんが片腕を彼のシグネチャーであるロボットの腕に描き変えたドローイングを僕に見せてくれて、真史と僕はそれを面白いと思い、コラボレーション作品を制作することになりました。だから、僕たちはこれをスカルプチャーにしようと試みたのですが……これがとにかく難しかった。特にジョイントの部分は本当に骨の折れる作業で、指を綺麗に絡めて外せるように幾度となくミーティングを重ねました。一旦空山さんがロボットの原型を作り、僕が石膏の原型を送って、そこから僕が組み立てをしたんだけど、はめ込みの難しさは想像を遥かに上回ってましたね。

空山:両方、硬い素材だからね。実際の人間の手だと筋肉の柔らかさが譲り合うけれど、硬い素材で人が手を繋ぐ優しい質感を表現するのは難しい作業でした。絵はどうにでもなるけど、立体作品はそうもいかなくて。(金と石灰でできた作品を指差して)Daniel、あの作品は個人的にどう思う?

Daniel:僕は作品制作において、銅や金を使用しません。ゴールドのジュエリーも身に付けないし、そもそも金に全く魅かれないタイプの人間です。でも、実物を見たら、金が僕の石灰の手ととても調和していて、すごく気に入っています。

Danielはなぜ、この作品を制作しようと思ったのでしょうか?

Daniel:僕はギリシャやローマ、古代のものなど、歴史的なスカルプチャーにすごく興味があるんです。それらを見に美術館へ行くと、身体、頭部まで、全身のスカルプチャーを観賞することができますよね。でも、足下を見てみると、とある事実に気がつきます。実際に見つかったものは腕だけだったり、頭部だけだったりで、他の部分は後から造られたものなのです。そうして、僕はこのスカルプチャーを思いつきました。手を繋ぐ……これは長い年月を経ても変わらず現代まで残っている人の優しさだったり、愛情や、協力することなどを表現しています。そして、空山さんとのコラボレーション作品は、ロボットと人間が共存する一種のクレイジーな世界を提示していて、この奇妙な状況は実際に起こりうる可能性があることから、非常に物語性のある作品となりました。この作品は、様々な想像を駆り立てるものなんです。

空山:なるほど。でも、私はそういうアイディアがあるなら、もっと“直球的”に表現するけどね(笑)!実際にそういう作品も作っているし。だた、彼のこの作品のコンセプトは、解釈に迷うことなく、理解できました。

今、様々なシーンで“アートの力”が求められていますが、ここ数年での需要の増加について、何か思うことはありますか?

Daniel:僕はこれまで多くのブランドとコラボレーションしてきたけど、かなり厳選して活動をしています。目に見えるのは実績だけだけど、オファーの数はそれの何倍にも及びます。ラグジュアリーブランドと共にしたのは、Louis Vuittonとイースター島のトラベルブックを制作した時だけです。Kim(キム・ジョーンズ)は正真正銘のアーティストで、僕は彼の作品の理解力や扱い方を心から尊敬しています(※この本はKimがVuittonのデザイナーだった2013年に制作。また、2020年春夏シーズンにはKimがアーティスティック・ディレクターを務めるDiorとのコラボレーションが発表される)。空山さんがKimと仕事をした時にも同じような感覚を覚えたのではないでしょうか。Kimは僕の素材をコレクションにとても繊細に落とし込んでくれます。まるで、僕が作品を制作をする時と全く同じように。僕はすべてのブランドやメゾンがそのレベルにあるとは思っていません。

空山:近代になってから、細分化が進み、ファッションでもアートでもその道のプロフェッショナルがたくさん出てきましたよね。それが、少しぎくしゃくとしている原因だと思います。ただ、この需要の増加は、それが今、ひとつに集まろうとしている証拠とも考えられるのではないでしょうか。かつて、〈Nike〉のMark Parker(マーク・パーカー)が会社を再建した時のことを覚えていますか? 靴は靴、アパレルはアパレル、となっていたものを野球、ゴルフといったカテゴライズに大改革しましたよね。この改革のように、全ての部分において時代が心地よく、使い勝手のよい感じになってきているのだと思います。分割するのではなく、集める方向。2Gは、POGGYさん、MEDICOM TOY、そしてNANZUKAによる三者のコラボレーション。これからの時代は、ブランドネームや高価であればあればあるほど良いと考えている人たちには迷いが生まれる一方、真摯に物事に向き合っている人にはすごく快適になるのではないでしょうか。

時折、“アートがファッション化されている”ように感じることがあります。お二人は、そのように感じることはありますか?

Daniel:いいえ、僕はこの種のコラボレーションを始めた頃へと立ち返り、ブランドの商品をプロモーションするために僕のアートワークが使用されることを楽しみ、今では私の作品のコレクターたちでさえ、それを求めるようになっています。以前は、僕がブランドと手を組み、自分のアイディアや作品をプロモーションすることが快く思われていませんでしたが、僕にはそれが理解できませんでした。僕の手法は、1960年代の時点でWarhol(アンディ・ウォーホル)がやっていたことと同じなのに、僕のやり方を良く思わない人たちは口を揃えて「Warholは最高だ」と言います。私はWarholがアートの広告塔として大衆に受け入れられたので、人々は彼のアイディアの起源を忘れてしまったのだと感じています。Warholはファッションを愛し、広告を愛していました。彼は、アートを通して不特定多数の人を刺激するひとつ方法として、広告を捉えていました。今、僕たちがやっていることも、彼と何ひとつ変わらないと思っています。

空山:それぐらい混沌としている状況なのでしょう。私はそもそも、ファッションだとかアートだとかの線引きは不要だと考えています。そういう考察は、評論家が言うだけです。ファッション、例えば立体裁断とかは“文明”っぽい。でも、グラフィックやニュアンスというものは“文化”だから、両方の立場で物事は成り立っているし、分析する必要はないと思いますよ。

日本でより文化として広くアートが根付くためには、どのようなムーブメントや活動が必要だと思いますか?

空山:日本において、一般の方が作品を購入するようになったのは、ここ50年ぐらいの話です。昔は大名や財閥の人が買うもので、中流階級以下の人がコレクションする文化は日本に存在しませんでした。そもそも、日本は狭い国で、家屋も小さく、アートを飾る十分なスペースがない。だけど、バブルをきっかけに、小金持ちが欧米の真似をして作品を買い出したけど、不景気になったら誰も買わなくなりました。また、村上(隆)さんは、日本人アーティストとして世界への扉を開いたパイオニアですが、日本のアートシーン自体は成長しようとする気概を見せませんでした。それでは、文化として根付くはずはありません。それに、今のアートは“ギャンブル”のようなものです。ギャラリーは今、この問題に取り組もうとしており、私もこのギャンブルへ対するアンチテーゼを謳ったキャラクターを制作中です。日本はもちろんだけど、2008年のニューヨークはどうでしたか?

Daniel:僕は、リーマンショックがあった2008年にニューヨークへ引っ越してきました。アートの世界では、(ネガティブな意味で)何も起きませんでしたね。でもこの年、僕は目立たないようにスタジオに籠もって、ひたすら作業を続けました。このような危機はどこにでもありうることですが、ニューヨークは特別大きな被害があったのではないでしょうか。現代のマーケットは、よりグローバルになっています。僕が世界のどこでアートショーを開催しても、ファンやコレクターたちはそこに来てくれますからね。

空山:今、ニューヨークで評価されているアートのうち、100年後にも残るのは全体の何%ぐらいだと思いますか?

Daniel:すごく少ないと思います。マーケット次第ですが、0.5%ぐらいではないでしょうか。

空山:彼が言うように、現代アートは画廊も含め、ギャンブル性が高く、100年後に生き残る作品はほとんどありません。だから、残らない作品にお金を払うのではなく、私の作品を買ってください(笑)。私の作品は、300年後に評価されるのでね!

(一同、笑う)

では、最後にDanielから本展を訪れる方にメッセージをお願いします。

Daniel:本展のアート作品は、とても人間味のあるものばかりです。だから、皆さんもきっと、すんなりと理解してくれるのではないでしょうか。是非、お近くの際には『2G』までお越しください。